発展滋賀の「チバニアン」(千葉時代)
滋賀県でも「チバニアン」の「地磁気の逆転」って見つかるのかな?
「チバニアン」って何?
「チバニアン」を知ってますか?2020年1月、初めて日本の地名が地球の歴史を表す時代の名前(地質年代)になったことが大きなニュースになりました。
「チバニアン」というのは、ラテン語で「千葉時代」という意味です。これまで地球史で77万4000年前から12万9000年前の時代は「中期更新世(ちゅうきこうしんせい)」と呼ばれ、名前がついていませんでした。それが、国際学会で正式に「チバニアン」と名付けることが決定されました。
この「チバニアン」についてくわしく見てみることにしましょう。
地球の歴史と地質年代
地質年代
地球の歴史は約46億年といわれます。その歴史は主に生物の進化と絶滅を基に時代が区分けされています。大きな区切りとして「代」、代を細かく分けた「紀」、さらに細かい区切りとして「世」「期」があります。「中生代」と「新生代」という時代の分かれ目では恐竜の絶滅がおこっています。
恐竜の時代「ジュラ紀」「白亜紀」
各時代には、その時代の研究のもとになった地層などから名前がつけられています。映画「ジュラシックパーク」の題名は、恐竜が栄えた時代の「ジュラ紀」にちなんでいますが、この時代の地層が広がるフランスとスイス国境の「ジュラ山脈」から名づけられました。同じく恐竜が大繁栄し絶滅した時代の「白亜紀」は、イギリスとフランスの間のドーバー海峡沿いの白いがけ(高さ100mにおよぶ地層)の白亜(チョーク)から名づけられました。白亜(チョーク)は、黒板で使うチョークの原料でした。このチョークは顕微鏡(けんびきょう)でもよく見えないほどのとても小さな生き物のカラが集まったもので、これが大変長い時間をかけて大量に海底につもって分厚い地層になりました。
ジュラ山脈とチョークの崖
三葉虫が絶滅した「ペルム紀」
また、三葉虫が絶滅した時代で「古生代」と「中生代」の区切りの「ペルム紀」(古生代の最後の時代)はロシアのペルミ地方から名付けられました。スィルヴァ川やオチョル川の川岸にはペルム紀の地層が見られる場所があり、スィルヴァ川の「イェルマーク岩」などが有名だそうです。
地質年代の名前と模式地(もしきち)
このような時代の名前の元となった地層がみられる代表的な地域を「模式地」(もしきち)と呼びます。現在、地球の歴史は116の地質上の区切りによって117の時代に分けられていて、世界の中でその区切りが最も分かる地層が基準として決められています。そしてその地層の地名にちなんで時代名(地質年代)がつけられています。
「千葉セクション」(千葉県市原市田淵の養老川沿いに見られる地層)
千葉セクションの位置(千葉県市原市)
図/国立極地研究所(改変)
「千葉セクション」は、千葉県市原(いちはら)市の養老(ようろう)川沿いにみられる海で積もった地層です。「地球史上最後の地磁気逆転」が77万年前におこったことを証明する地層の一つです。地球では、これまで方位磁石のN極が指す向きが今の北(S極)とは逆になる「地磁気の逆転」がくりかえし起きており、これが一番最近おこったのが約77万年前でした。
第四紀>更新世>チバニアン期
「千葉セクション」の特徴
「千葉セクション」の特徴は、ふつう地層は1000年分でもせいぜい60cmくらいの厚さにしか積もらないところが、千葉セクションでは1000年分の土砂が約2mの厚さにたい積していて、この時代の環境や生物の変化を大変くわしく調べることができることです。
この地層では地磁気が逆転していく様子を連続して観察でき、77万年前に起こった御嶽山(おんたけさん)の噴火(ふんか)による白尾(びゃくび)火山灰層がちょうど地磁気逆転の時期の目印となっています。地磁気の逆転はこれまで約78年前とされていたものが、この地層の研究でより精密に約77万年前と分かりました。
「チバニアン」(千葉時代)
この地層の時代が含まれる「更新世(こうしんせい)」という時代は4つの時代「期」に区分けされており、その3番目の時代である77万年前の「地磁気逆転(ちじきぎゃくてん)」を始まりとする時代(77.4万年前~12.9万年前)の名前が決まっていませんでした。それが日本の研究チームの申請(しんせい)にもとづいて2020年1月「チバニアン」(千葉時代)と名づけられました。日本の地名が地球の歴史の時代名になったのは初めてのことです。
しかし、かんたんに「チバニアン」に決まったわけではありません。ほかにも候補となる地層があって、一番のライバルは、イタリアのイオニア海にちなむ「イオニアン」でした。どちらの地層が、この時代の代表にふさわしいかがくわしく議論された末に日本の「チバニアン」が選ばれたのでした。
これで「更新世(こうしんせい)」の4つの区分「期」の内3つの時代の名前が決まりました。最初の2つの時代はイタリアの地名から「ジェラシアン」「カラブリアン」と名付けられています。最後の4つ目の時代の名前はがまだ決まってなくて、ひとまず「後期更新世」と呼ばれています。
地磁気(ちじき)の逆転
地球は一つの大きな磁石になっています。現在の地球の磁場は北極がS極で南極がN極になっています(方位磁針のN極が北を向くのは、北極のS極と引き合うからです)。しかし、地球の歴史上このS極とN極の向きは何度も逆転してきました。その証拠(しょうこ)を最初に発見したのはフランスの科学者ベルナール・ブリュンヌです。ブリュンヌは1906年に岩石やねん土の磁気の向きが地層によって異なっていることから、現在とは逆の向きの地磁気の時代があったのではないかと推論しました。
チバニアン~現在
(地球)改変
カラブリアン
(地球)改変
100年前に地磁気の逆転を発見した日本人
松山基範博士
(1884~1958)
京都帝国大学(今の京都大学)の教授だった松山基範(まつやまもとのり)博士は、1926年に兵庫県の玄武洞(げんぶどう)の岩石が、現在の地磁気の向きとは逆に磁化してることを発見しました。そして、本州、九州、朝鮮、中国東北部の36地点から採取した岩石の磁化方位を測定して、1929年に地球磁場逆転の証拠(しょうこ)を発表しました。
その中で松山博士は、時代が異なる各地の岩石が、ほぼ正反対の2つのグループに分かれることを見いだして「前期更新世」に地磁気の逆転があったと結論付けました。当時はまだ岩石の年代を正確に測定する方法がなかった中で、このような結論を導いたことは大変すばらしいことです。現代の研究では、この地磁気逆転は、博士の結論した次の時代である「中期更新世」(これが「チバニアン」と名付けられました)であることが分かっています。
松山博士の研究は、発表当時はあまり注目されませんでしたが、戦後になってから国際的に高く評価され、最後の地磁気逆転現象を証明したとして、この地磁気逆転は「ブリュンヌ-松山逆転」と呼ばれています。
(「地質ニュース615号」2005/11改変)
玄武岩(げんぶがん)と地磁気の「化石」
玄武岩(げんぶがん)は、地下のマグマが地表に近いところで急に冷えてできた岩石です。このような岩石には、磁石(じしゃく)の性質を示す鉱物(こうぶつ)がふくまれています。その鉱物は、熱いうちは磁石(じしゃく)の性質はなくて、冷えた時に磁石になります。そして、岩石が冷えた時の地磁気(ちじき)の向きが、鉱物のN極とS極の向きとして、いわば地磁気の「化石」として残ります。このような鉱物の磁気の向きを調べることで、大昔の地磁気の向きが分かるのです。
古琵琶湖層の中の火山灰と地磁気の逆転
堅田累層の中の火山灰層
喜撰火山灰(アズキ火山灰)
滋賀県で「チバニアン」と同じ時代の地層は、湖西にある古琵琶湖層群(こびわこそうぐん)の堅田累層群(かたたるそうぐん)です。
この地層の中の火山灰層を調べた京都大学の林田明さんの研究によると、87万年前の喜撰(きせん)火山灰(アズキ火山灰)やその上にある70万年前のバイオタイト火山灰は、現在の地磁気の向きとは逆向きで、その上の雄琴(おごと)火山灰や上仰木(かみおうぎ)火山灰は現在の地磁気の向きと同じだったそうです。そして、バイオタイト火山灰の約9m上に地磁気の向きが逆転した「ブリュンヌ-松山逆転」の場所があるらしいことが分かったそうです。
地質年代と地層
絶対年代 | 地質年代(地球の歴史の時代名) | その時代を代表する地層 | 滋賀の主な地層・岩体 | ||||||
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1万1700年前 | 新 生 代 |
人 類 の 時 代 |
第四紀 |
完新世 | 沖積層 |
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258万年前 | 更 新 世 | 名前がまだない | 千葉セクション |
段丘層 |
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チバニアン | こびわこそうぐん 古琵琶湖層群 |
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カラブリアン | |||||||||
ジェラシアン | |||||||||
533万3000年前 | ほ 乳 類 の 時 代 |
新第三紀 |
鮮新世 | ||||||
2303万年前 | 中新世 | あゆかわそうぐん 鮎河層群 |
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6600万年前 | 古第三紀 |
漸新世 | |||||||
始新世 | |||||||||
暁新世 | ドーバーの白亜(イギリス) |
かこうがん 花崗岩類・ことうりゅうもんがん 湖東流紋岩類 |
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1億4500万年前 | 中 生 代 |
は 虫 類 の 時 代 |
白亜紀 | ||||||
2億130万年前 | ジュラ紀 | ジュラ山脈(フランス) |
みのたんばたい 美濃丹波帯の中古生層 |
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2億5217万年前 | 三畳紀 | ||||||||
2億9890万年前 | 古 生 代 |
両 生 類 の 時 代 |
ペルム紀 | ペルミ地方(ロシア) |
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石炭紀 |